体を起こし振り返ると、いくつかのカーブの先にまだ煙を上げている先ほどの現場が見える。いいとこ二、三キロも走ってないにちがいない。

 前方に目を戻すと、緩い右カーブの途中で先が見えなくなっている。おそらく峠になっていてその先は下り坂になっているだろう。

 わずかばかり気力が戻ってくるのを感じる。自分を励ますように気合いの一声を発すると、また重い足を引きずって坂を登り始めた。

(亜紀は、もっと辛かったはずだ……)

 自分の体に鞭打つことが、自分の罪を少しでも軽くするような気がして足を速めた。喘息の発作の苦しさが今ならわかる気がする。

 そう、亜紀は喘息を患っていた――。