トントンと軽やかに音色を変えたエンジン音がゆっくりと進むと、やがて満開の桜の木の下でその鼓動を止めた。

 不意に訪れた静寂の中、桜が舞った。

「綺麗……」

 目の前に根を張る一本の大きな桜の木。それは鏡のように澄んだ泉のほとりに佇んでいた。水面には周りの山を映し込み、桜の花びらが色鮮やかに浮かんでいる。

「良かった、今年も咲いてて」

 ここはバイクに乗り始めた頃、偶然見つけたとっておきの場所だ。毎年ここの桜を見るのが楽しみで、でも誰にも教えたくなくて……。

 ここに誰かを連れてくるのなら、特別な人と決めていた