若林は奥さんの願いで同じベッドで眠りについた。奥さんの静かな涙と笑顔がその心情を表しているようだ。

「最期に幸せを、こんなかたちで感じる事が出来るんですね、人間は」

 その言葉を発したのは、まだ二十歳そここに見える女性の看護士だった。

 そういえば田舎町にしては大きな総合病院だが、他の看護士はおろか医者の姿も見ない。行ったり来たり忙しく駆け回っているのは彼女ひとりだけだ。

「あの、他の看護士さんは?」

 浮かんだ疑問を尋ねてみた。

「みんな帰っちゃいました。先生も」

 それは残念というよりむしろサバサバした表情で、穏やかな笑みさえたたえている。

「君は帰らないのか?」

「もちろん。ここにはまだ動けない患者さんも大勢いますからね」

「でも君にも家族や恋人がいるだろう」

「あ、ひどい。彼氏とは一カ月前に別れたばっかりなのに!」

 そう言って頬を少し膨らましてぷっと笑ったが、すぐに真顔になって続けた。

「親は居ますよ。でも、わたしは病気に苦しむ人を助けるのが人生の目標だったんです。だから、最期までやり通せたら悔いはないんです」

 自分が恥ずかしくなった。他の人間を利己主義と蔑みながら自分もその中に属することに。