男の無防備で無力なその攻撃は悲しいほど喧嘩を知らない。荒い息を途切れ途切れに眼だけは血走ったままだ。

「バイクを……」

(渡すかよ、俺がどんな思いでここまで……)

 男の執念は理不尽だが、それでもその深さは並大抵ではないように思えた。しかしこちらも執念で負けるようなことはない。

「ふざけんな!」

 そいつの腹にもう一発膝を入れた。内臓をえぐる感触が太ももから伝わると、俺の腕を掴む手から力が抜けていった。そしてその体はゆっくりと膝折れた。

 勝利を確信した俺は、手を緩めるどころかさらにエスカレートする。