「逃がすかコラ!」

 組みかかろうとする自衛隊員はしかし、その動きを目の前で止めた。

「どうした?」

 ジッポの炎が俺の左手に揺らめいている。俺は冷静に言葉を発しながらも、怒りが体内に燃え盛っていたのだ。反射的に逃げ出す自衛隊員。

 俺の心も狂気にふれたのだろうか……

 左手の炎は空中に放り出され、綺麗な弧を描いて飛んでいた。まるでスロー再生の一コマを見ているようだ。

 その軌跡のあとは追わず、バイクのギアを入れクラッチを繋いだ。耳をつんざくような悲鳴をかき消すかのようにエンジンの回転数を上げる。

 かろうじて付いている右のバックミラーに炎が映り込んだ。後悔も、罪悪感も、恐怖すらもなかった。



あと二十時間――