「じゃあ亜紀……ちゃん」

 それでも亜紀は納得しないようだ。無言のまま首を横に振った。

「亜紀……」

「そこでストップ!」

 手のひらを俺の目の前にかざすと、なにか敬称を付け足そうとする口を塞いだ。

「亜紀って呼んでよ」

 今まで心の中で何度そう呼んだだろうか? しかし、いざ口に出すとなるとそれはそれは勇気を必要とするものだった。

「亜……」

 亜紀は悪戯を楽しむかのような目線で俺の目をのぞき込んでくる。

 おかげでこっちの心臓の鼓動はさらに速くなった。

「……紀」

 顔は真っ赤になっていただろう。やけに熱い血液が顔中を駆け巡るのが分かった。それを聞くと亜紀は満足げに笑った。



 その笑顔がたまらなく好きだった――。