そして……今も泥にまみれて義母を捜すあさきちの姿が浮かんでくる。

 きっと怪力を駆使して瓦礫を掴んでは放り投げていることだろう。不器用なまでに優しい奴だった。俺を人間に戻し、そして生きる意味を示唆してくれた。

(あいつなら、きっと捜すさ……)

 次々と脳裏に現れては消える出会った人々、その一つ一つの出来事は偶然に過ぎないものだったのだろうか?

 そのどれもが人生にとって重要な意味があったのではないだろうか?

 運命と運命が繋がってゆく。あさきちが口にした生きる意味とは……

 想いが巡って亜紀にたどり着くと、再びあの日、胎児を抱いて泣き喚いた姿に行き着いた。

(じゃあ……あの子にも……)

 この時、初めて亜紀が別れを切り出した意味を理解した。そしてどれほど亜紀が深い悲しみに苛まれていたのかも。

 俺は亜紀への罪の意識、そして亜紀は見ることの出来なかった命への罪の意識へとすれ違っていたのだ。あれは胎児ではない。宿った時点で俺たちの子供だったのだ。

「そうだったのか……」

 命の重さ、尊さ、そして儚さというものを目の当たりにしながら駆け抜けてこなければ解らない事だったかもしれない。

 ずっと亜紀が抱えてきた苦しみを初めて分かち合えた気がした。それは自分が抱えていた苦しみよりも、ずっと重い。