谷底へ落下してゆくバイクのライトが何度か回転し、そして消えた。

 とっさに横に飛び退いた俺はかろうじて崖っぷちに体を残した。心臓が飛び出るような恐怖のあと、荒い息をそのままに体を崖から引き離した。

(危なかった……)

 もはやこれからは自分の足で登らなければならないが、それでもバイクで距離を稼ぐことができたはずだ。下から歩いて登っていれば、ここまで元気なときでも、一時間はかかっていただろう。

 この足では途方もない時間を要してたはずだ。

(前だけを見るんだ)

 ヘルメットを脱ぎ捨てグローブを外した。わずかに白み始めた空の光を頼りに辺りの茂みから木の枝を拾い上げ、それを杖代わりに進む。

 痛みと発熱と失血によるダメージは深刻だった。おぼつかない足元は何度も体を支えきれずに崩れ、徐々に目の焦点を合わせるのも難しくなっていく。

 だが、確固たる意志は歩みを止めることを許さなかった。転んでは立ち上がり、そしてまた這いつくばる。