「ぐっ……が!」

 上下に激しくバウンドするバイクに、左足の激烈な痛みが脳天へ突き抜ける。

「痛みで死ぬわけじゃない」

と自分に言い聞かせても、あらがうことのできない痛みに、一旦スピードを緩めた。

(駄目だ、飛ばせない!)

 我慢のきかない自分の体を呪いつつ、我慢の限界を探るようにして登るしかなかった。

 ヘルメットのなかにこもる自分の吐息が荒い。さらに暗闇が道の障害物の発見を遅らせる。

 ほとんど片手片足の状態で、何度もバランスを崩しそうになるのをこらえ、ひたすら山道を登る。一旦転んでしまえばバイクを引き起こすことさえ至難だろう。

 朦朧とする意識のなか、ついに目指す頂上が見えてた。体の疲れが一気に飛んでゆくような感覚に満たされ、俺はその坂を登りきった。

(やったよ……)

 バイクの前輪が角度を下げ、地面に着くと思った瞬間……暗闇が目の前に現れた。

(……え?)

 出血多量による幻覚――。

 道を逸れ、谷底へ向かって俺はバイクを走らせていたのだ。

 慌ててブレーキをかけたが、接地感を失ったフロントタイヤはそのまま谷底へと吸い込まれてゆく。

 星の降る夜空の下、暗く険しい山道に俺の叫び声がこだまし、そして谷底から衝撃音が遅れて響いた。



 あと一時間――