「さよならマキ、強く生きて……ね」

 返事がのどにつっかえて出てこない。ただ頷くだけしか出来ずにドアを開けた。

(もう……会うこともないんだ!)

 傘を持ってきていなかった俺はずぶ濡れのまま住み慣れた街をひとり去った。

(この雨が悲しみも流してくれたらいいのに!)

 感情は極まり、俺は声を露わにして泣いた。膝が崩れ、街路樹にもたれかかって泣いていた。

「愛してる……愛してるのに……どうして?」

 あのときの俺にわかるはずのない答え――。

(今ならはっきりとわかるんだ)

 あのとき亜紀は、

『わかるようになったら迎えに来て』

 そう言いたかったんじゃないだろうか?