その日はあいにくの雨だった。

 すでに俺の荷物は引き払われ、少し寂しくなった部屋で俺たちは最後の夜を共に過ごした。別れを切り出したのは亜紀のほう。そして理由も聞かず、俺はその言葉にうなずいた。

 亜紀を愛していないんじゃない。

 むしろその逆で、愛しすぎたひとが俺のせいで苦しむ姿をこれ以上見ていられなかったのだ。

「マキ、わたしはあなたに立ち向かって欲しかったの。悲しみに立ち向かって乗り越えて欲しかった」

 最後にベッドの中で亜紀は俺にそう言った。

「亜紀、俺も亜紀に同じ事を思っていた」

「わかってる。でも目を背けて忘れることは逃げてるだけだと思う。前向きに生きるってことは悲しみを引きずらない事じゃなくて、乗り越えるって事じゃないかな?」

 そこから先へ話を進めてもいつものように堂々巡りだ。

「いまさら言っても仕方ないよ」

 生き方の違いと言うしかない。俺と亜紀には考え方に決定的な違いがあったのだ。そしてそれは愛情とは別のところにあった。