それはもはや一般人を助ける事を放棄した大規模な鎮圧作戦に乗り出したことを意味していた。そして俺を取り囲むように続く爆撃は、ここが暴走部隊の占拠する一帯であることを知らしめていた。

 炎の壁がいたるところに立ちはだかり行く手を阻む。

(まずいな……)

 普通の生活を送ってきた俺に、こんな状況が訪れるとは思った事すらない。生き残るための術など、何一つ持ち合わせてはいない。

 後ろのビルの影からエンジン音が近づいてくる。その重い響きと速度は、おそらく装甲車両だろう。

 俺は追い立てられるようにバイクを走らせた。

 どこの角から敵が飛び出してくるか分からない恐怖の中で、闇雲に炎を切り裂くようにして走る。

 前方に人影が一つ現れた。一瞬握りしめたブレーキをまた離す。危害を加えるような人物には見えなかったからだ。

(なんてことだ……)

 細身の若い青年。そいつはたどたどしい足取りで道の真ん中を歩いていた。それもそのはずだ。その青年は白い杖を頼りに、見えない目で歩いていたのだから。