最悪の事態を想定する脳内の血液は、その温度を下げたかのように神経を冷やしてゆく。

(頼む! かかれ)

 ヒュルヒュルとクランクを回す頼りない音と、プラグがかぶったのか咳き込むような音がマフラーから吐き出された。

「おい! 頼む、かかれ」

 タコメーターを注視し、息を吹き返すのを願うが、セルモーターの音だけが空しく響く。

 もう三年も連れ添った愛車はここで息絶えるのだろうか? そしてそれは同時に最後の願いも途絶えることを意味する。

「うおおおお!」 

 魂の叫びと同時にタコメーターの針は跳ね上がり、爆音が周囲を震わせた。

(よおし!)