俺が自嘲気味に吐いた言葉に、パイロットは作業の手を止め、立ち上がった。

「じゃああなたは優しさを持て余して使い方が分からなかったんだ」

(使い方?)

「いまその奥さんに会いに行く、という道を見つけるまでに時間がかかっただけですよ」

 そう言うと、パイロットは優しく笑いかけた。

 バイクを機外に降ろすと三たび侑海と握手を交わす。中指をなかなか離さない仕草が胸をくすぐった。

「絶対奥さんを幸せにしてね。気をつけて」

「本当にありがとう。なんて感謝すれば……」

「それ、あたしがさっき言った言葉!」

 俺たちは目を合わせてつかの間の笑い声をあげ、そして最後の別れを告げた。

 走り出した俺の目の前は灰にまかれた荒涼とした街並みが広がっていた。ライトの光は灰塵に遮られて視界はひどく悪い。それでももうしばらく進めば艶やかな夜の空が見えるだろう。