「ちゃんとしたオフローダーだから大丈夫だと思うわよ」 

 後部のハッチを開けながら地味なモスグリーンの車体を叩く。それはバッタのような形をした自衛隊オリジナル仕様のようだ。

 俺はバイクまで差し出されてひとりこの場を去ることに申し訳なく思う。二人にそのことを告げた。

「俺のためにこんなことになってしまって……申し訳ない」

 俺は頭を下げたが、パイロットは明るく言葉を返した。

「なにを言ってるんですか、侑海ちゃんの恩人なんでしょ?」

「恩人って言えるのか……」

「ひろ姉さんから聞きましたよ。侑海ちゃんは自分らのアイドルですからね」

「そんな……」

「そんなもんなんですよ、理由なんて。自分のした事がどれだけ相手に感謝されたかなんて分からない。でもね……」

 パイロットはバイクの車輪のロックを外しながら言葉を続けた。

「あなたはたぶん優しい心を持っているんですよ。だからそれが人に伝わる」

「それはないよ。俺は妻を苦しめたあげく別れてしまったんだから」