「これどう?」

 それはクリーム色の下地にイラストタッチのクジラが描かれたペアのマグカップだった。

「ほら、これをくっつけるとね……」

 左右のカップを対照に合わせると、二頭のクジラが一枚の絵となった。

「ほら、クジラがチューするんだよ」

 ほのぼのとした絵柄にきらきらした瞳を輝かせた亜紀は迷わずそれを購入した。それから俺たちはお茶も紅茶もコーヒーも、すべてそのカップで飲むようになった。

 時折俺のカップに自分のカップをくっつけてひとり微笑む亜紀は、それがよほど気に入っていたのだろう。

 しかしそんな亜紀の姿も、あの子供を亡くした日以来見ることはなくなった……。