「あの子はずっと苦しんで生きてきた! 私たちすらあの子を突き放してしまったんだよ。だから頼む、最期だけでも亜紀を幸せにしてやってくれ」 

 義父の涙は愛する娘を想う気持ちに溢れている。俺はそんな義父の気持ちに応えなければ罪を償うことはできないだろう。

「かならず、亜紀を見つけます!」

 俺はそう告げると立ち上がり、あさきちに顔を向けた。

「お前が居なかったらここまで来られなかった。最高の友達が最後に出来たよ」

「お互いな」

「お義母さんを頼む」

「絶対見つけるから、真樹夫も亜紀さんを絶対見つけてよ」

「初めて俺の名前を呼んだな」

「はは……そう?」

 バイクのもとへたどり着くと、そこには置き去りにされたあさきちの黒いバイクが残されていた。

(あさきち、お前と会うことももう無いんだな)

 失うことの寂しさは何故こんなにも辛いのだろう。俺の周りにはいつもこんなにもかけがえのないものが溢れていたのだ。ただずっとそれに気付かずに生きてきただけだ。

(さよならだ)

 軽やかな排気音が瓦礫の山と化した町にこだました。

 失った愛を取り戻すために今きた道を引き返す。福岡の片田舎にその場所はある。

 ここまで来た時間を逆算すればもはや猶予はまったくなかった。



 あと五時間――