広い――。

 眼下に広がる、津波に押し流された爪痕はあまりにも広い。足元を照らす明かりから視線を上げると改めてそう思った。

(捜し出せるのか……?)

 泥を拭いて時計を見ると、時刻はすでに午前零時を三十分ほど回っている。先程から手掛かりを見つけるために、救助隊や他の家族を捜す人を捕まえては質問を繰り返すが、返ってくる答えは同じだった。

「美鈴ー!」

 そんな時、やや離れたところからその名前を呼ぶ声がかすかに聞こえた。

(美鈴?)

 その名前が頭に引っかかる。聞き覚えがあるのだ、確かに。しかし脳内の記憶を辿るがなかなか出てこない。

 確か……

「お義母さんの名前だ!」

 その声に角材で瓦礫を押し退けていたあさきちが手を止めた。

「どっから声がしたん?」

「もっと下のほうだ!」