「でもね、今の状態だと母体が持つかどうか。恐らく赤ちゃんは助からないよ」

 目の前が真っ暗になる。その後の医師の話が絵空事のように聞こえていた。

「母体が安定するまでとりあえずウテメリンって薬で早産防止をしてみるけど、母子ともに覚悟はしておいてよ」

 この時、俺と亜紀の目の前にある幸せは崩れ去った。

 翌日、チアノーゼから回復した亜紀の手には、幸せに産まれてくるはずだった小さな小さな俺たちの子供が乗せられていた。しばらく目を見開いていたが、突然堰を切ったように泣きわめいた。

「赤ちゃんが! あたしの赤ちゃんが」

 狂ったように泣き叫び続ける亜紀は、胎児をしっかりと抱きしめて涙を流し続けた。慰めようとする俺の手を振り払い、病棟の廊下まで響く声でいつまでも泣き続けた。

 その声に俺は胸をかきむしられるような痛みに襲われた。

 心の痛み――。むしろ肉体の痛みに変えてしまえたらどれだけ楽になるだろう?

 そのくらい……


 痛かった――。