それでも、速度は落ちても路肩を走れる利点がバイクにはある。進路を車の列の左に取ると、歯噛みする運転手らを横目にアクセルを開けた。

 おそらく神戸の人間が西方面の親族に会いに押し寄せているのだろう。もちろん東方面に向う車も軒並み増えてはきていたが、その比ではない。

 きっと、西宮北のインターを過ぎればある程度解消されるだろう。

 GWや年末年始によくこんな場面に遭遇した。その中を俺はバイクですり抜け、車内で窒息しかけたドライバーたちをさらにイラつかせたものだ。

 しかし今はGWや年末年始とは違っていた。

 列に並ぶ一台の車のタイヤが左に回されるのが目に入る。その車が次に起こすであろうアクションが頭をよぎり、瞬時に右手をブレーキレバーへと伸ばす。乗用車は止まらない。ノーズを回頭させ、そのまま急発進して目の前に飛び出してくる。

 心臓に鈍痛が走った。速度を落としきれない。

(──っ!)

 車を避けるべく急激な減速を敢行しながら、さらに左へと向きを変える。

 しかしその回避行動も虚しく、横から接近する車のバンパーは躊躇なく足元に突っ込んできた。車にとっては軽い接触かもしれない。しかし不安定なバイクにとっては、それは致命的な衝撃となる。