午前六時――

 宇多田ひかるの着歌が携帯から鳴り響き、向こうの世界にいた俺は現実の世界へ引きずり戻された。どんな夢かは忘れてしまったが、肌にじっとり掻いた汗があまりいい夢ではなかったことを物語っていた。

「んー……」

 顔をしかめているのは鏡を見なくても分かる。疲労感が抜けきらない三十代半ばの寝起きの苦労は、睡眠の欲求に甘える十代のそれとは明らかに違う。関節が硬くなっているのか、節々から気味の悪い音が体の中に響いた。あと五分……もう少しだけ眠りたい。

 まだ十分に活動を開始してない頭が朝から会議があったことを思い出す。そうだ、早めに出社して、役員連中に配る資料を準備しなければならない。

「んあっ……んー……」

 ベッドの上で伸びをすると、期せずして声がでる。

(もうおっさんだなあ――)

 おっさんは、自分をおっさんと認めた時からおっさんになるのだと友人が言っていたが、認めなくてもやっぱりおっさんになってゆくのだ。

 覚悟を決め、ベッドから抜け出す。くしゃくしゃの髪をかき分けながらキッチンへと向かう。やかんに水を注ぎコンロのスイッチをひねる。

(夜明けが早くなってきたなあ――)

 ベランダから射し込む光は弱弱しくも、もうすぐ朝が来ることを告げていた。ついこの間まで真っ暗だったのに、時の流れは早いものだ。いつの間にか、冬の朝の突き刺すような寒さも感じられなくなっている。