「やけになったのよ。自分たちの恐怖を伝染させて楽になろうとしたんだな」

 あさきちの言葉は推測とはいえ、的を得ていると思う。

 伝染させられた恐怖――。

 ジャッジメントが三年前に発見されていたという話を聞けば、尚更その想いはさらに強くなった。

 俺は何も知らないままの方が良かったんじゃないだろうか? 知ってしまったからこそこんな感情に襲われているだけかも知れない。知らなければいつも通りの生活の中で死んでいっただけの話だろう。

「なあ、あさきちは知らないほうが良かったか?」

「俺やあんたにとっては知って良かったと思うよ。でも大多数の人間にとっちゃ迷惑な話でしょ。特に女にとっちゃね」

 最後の最後に地獄の恐怖と苦しみを押し付けられた女性たちの無念はいかばかりだろうか。

 愛する人を失った怒りが次の暴力を生む憎しみの連鎖。まるで人類が今まで起こしてきた戦争が個人に、この一日に凝縮されたようだ。

(もし今、俺が亜紀を失っていたとしたら……)

 血にまみれて暴力に溺れている姿を連想して気分が悪くなった。しかし恐らくそうなっていたのでは、という考えを否定出来ないのも事実だ。

 そんな感情を言葉に出すと、このようになった。

「人間は死んで当然だな」

 自暴自棄に吐き捨てるように言った。だがあさきちの意見は少し違ったようだ。

「それ、その考えが危ない!」

 一際大きな声でそう言った。