おそらくあさきちの優しい心に侑海は最初から気付いていたのだろう。ただそれを子供心に素直に表現出来なかっただけだ。改めて少し、あさきちを羨ましく思った。

「じゃあ……さよなら」

 俺は手を振り炎に巻かれる道へとバイクを走らせた。

 さよなら……という言葉は好きじゃない。それを言ってしまうともう一生会えないような気がして……。

(でも、もう会えないんだよな……)

 村落を抜けると再び登り坂に差し掛かり、遅れを取り戻そうと俺はアクセルを全開にした。後ろに残る侑海の感触が無性に懐かしく思えて、少しセンチメンタルな心境だ。

 そんな俺の想いを踏みにじるようにあさきちの声が飛ぶ。

「侑海は俺に惚れたんじゃね?」

「お前ホント馬鹿!」

「あ、やきもち?」

「いっぺん死ねよ、お前!」

 エンジン音と二人の罵声は、エンジン音と二人の罵声が、静粛な夜の山道に不釣合いに響き渡った。



 あと八時間――