小さなカーブが続く細い山道は、大きなバイクにとってはその身を持て余すようだ。ひらひらと軽快にクリアする俺のバイクに比べて、巨体を揺らしながら続くあさきちのそれはジリジリと遅れをとり始めた。

 後ろからちゃちな警報音を鳴らされ、俺は仕方なくスピードを緩める。

「ひとりにしないでよ、怖いんだってばよ」

 まだ言っている。たとえ幽霊が出たとしてもそれが何だと言いたい。もっと大きな恐怖がそこらじゅうに転がっているではないか。

「俺ホントにダメなんだって、そっちの方面……」

 突然口をつぐんだあさきちの目が大きく見開かれていた。その視線は俺の顔を通過し、道の先に向けられている。ただならぬ気配を感じ、あさきちへ向けていた顔を前方へ戻した。

「出たーっ!」

 後ろから間抜けな叫び声が響き、続いて激しくブレーキを引き絞る音が聞こえた。ライトにぼんやりと浮かび上がる白い影がひとつ。

 それは確かに人の形をしていた。

 ガシャリとバイクを倒す音が響く。慌てて転回させようとして立ちゴケしたあさきちの無様な姿が後ろにあるのだろう。