まったく馬鹿馬鹿しいったらない。自分と比べてあまりに緊張感のない男の言葉に思わずそう毒ついた。

 温泉に浸かりながら最期を迎える、この大男が?

「あははは、馬鹿だ。お前絶対馬鹿だ!」

 その光景を思い浮かべるだけで笑いをこらえることは出来なかった。

「なに言ってんのよ、風情があって良いでしょうに」

 風情を感じるのが温泉という発想は理解不能だが、それもありなのかも知れない。殺伐とした光景を嫌と言うほど見てきた俺にとって、あさきちの爛漫さは心を癒してくれた。

「ついでだ。あんたが亜紀さんに会えるまでついてってやるし」

「やだね」

「なんでよ!?」

 まさか断られるとは思ってなかったのだろう。あさきちは戸惑いの表情を見せた。

「もし亜紀にフラれたらカッコ悪いじゃん」

「そんときは俺と温泉に浸かればいいし」

「浸かりたくねえーっ!」

 俺たちの奇妙な笑い声が辺りにこだました。きっとコイツは最期まで笑って過ごすのだろう。守るものを持っていなくても最後まで人間でいられるあさきちを羨ましく思った。

(コイツにはかなわないな……)

 笑いながら再びギアをローに入れるとアクセルをひとつ吹かす。

 あさきちのバイクがペースを合わせるように横に並んだ。たったひとり仲間が増えただけでこれほど心強くなることに初めて気づく。