真っ暗闇の高速道路に乾いた排気音が息せき切るように唸りを上げていた。

 事故を起こした車がその残骸を晒してはいるが、それによって起こる渋滞もなく、不気味なほど静まり返っていた。

 時折、白い車が道路脇に張り付いているのが目に入り、慌ててスピードを落として確認する。

(良かった、亜紀じゃない)

 白い残骸がライトに照らし出されるたびに心臓が凍り付く。しかし今のところ、その不安は杞憂に終わっていた。

 めずらしくバックミラーに光が反射した。ここまでまだ他の車が走っているのは一台しか目にしていない。

(速っや!)

 その光は見る見るうちに俺との距離を縮めてくる。いったい何キロ速度を出しているのか?

 こちらのスピードメーターはすでに百三十キロに達していたが、そのライトは止まっているバイクを交わすが如く一気に抜き去った。

(……えっ!)

 一瞬デジャヴかと錯覚する。まさかと思い、そして去り行くテールランプを目で追った。

「おいっ!」

 続けてありったけの声を上げた。もちろん聞こえる訳などない。しかしその声に呼応するかのように一際明るくブレーキランプが点灯した。

(まさか……そんな……)

 赤いブレーキランプはひとつしか灯っていない。抜き去ったのは車ではなく、バイクであることを示していた。