(これは……)

 指輪のケース――。それは俺が亜紀に贈ったあの時のケースに他ならなかった。

 見回すと他に誰も一緒に住んでいた形跡はない。ずっと一人でいたのだ、五年間。

 俺はベランダへ飛び出し、下の駐車場にあるべき二人で使っていた白いステーションワゴンを探した。

(ない、車がない!)

 亜紀は出ていったのだ。大事なものを身に付けて。

(亜紀もまだ……)

 胸が熱くなり、目頭に涙が込み上げる。

(……待っててくれた!)

 俺は部屋を飛び出した。ひとりの亜紀が向かう所はひとつしかない。それは両親の住む場所、大分に間違いないだろう。

 闇夜を切り裂くライトの光が福岡インターを駆け上がって行った。ここから大分市までゆうに三時間はかかるだろう。それもスムーズにいっての話だ。

 ほとんど無人の九州自動車道。そこをひたすら南に向かう。俺は風を切りながら、探していた愛が手に入れるべき愛であったことを噛み締めた。

「待ってろよ、亜紀!」

 暗い闇に赤いテールランプが長く尾を引いた。



 あと十時間――