俺は迷わず引き金を弾いていた。弾はわき腹に突き刺さり、恐らく致命傷となったのだろう、ゴボリと血を吐き出している。しかし男はあざ笑うかのように最後に言葉を残した。

「へへ、これでお前も……同じだな」

 その言葉に愕然として立ちすくんだ。

 いつの間に心が蝕まれていたのだろうか? 白と黒に塗り分けられた人間だけしかいない最後の世界、そこにはグレーゾーンが見当たらなかった。

(俺は……どっちだ?)

 その問いに答える者はどこにも居なかった。

 なつかしい赤い外壁を持つ瀟洒なマンション。その玄関に荒々しくバイクを滑り込ませた。

「亜紀!」

 ついにたどり着いた亜紀の住むマンション。それはかつて愛を育んだ二人の居場所だ。エレベーター脇の階段を一気に六階まで駆け上がると、廊下の突き当たりを目指した。

(頼む……無事でいてくれ)

 願いを込めてドアの前で足を止めた。そしてチャイムを鳴らしながら叫んだ。