「危ない!」

 警報器を激しく鳴らしアクセルを二、三度吹かして威嚇するが、女は俺の進路を塞ぐように両手を上げた。

 進路を右に取り、男らに取り押さえられる姿を無視してすり抜けた。

 横目に見るファーストフード店のカウンターでは、女性店員が同じ従業員に乱暴を受けていた。もちろん助けなどしない。他人にかまっていては大事なものを失ってしまうのだ。狂気に走った人間など、これから幾らでも出てくるだろう。それ以前に自分がどんな人間かは分かっているつもりだ。

 常識、モラル、世間体。

 目に見えない様々なものに縛り付けられていた人々を繋ぎとめていた鎖が崩壊し始めているようなイメージが頭に浮かぶ。それにはもちろん自分も含まれていた。

 名神高速の料金所を通過する。今さら通行券を取る必要もない。

 そんななか、不安だけが膨らみ、それだけで胸が破裂しそうだった。



 あと二十三時間――。