(いい加減にしろよ!)

 バイクを発進させると、後ろポケットに忍ばせていた拳銃を取り出す。グローブ越しに伝わる冷たい感触とずしりとした重量感が、車内で自衛隊員を撃ち殺した時の感触を思い出させる。

 奴らにはライトの光でこの凶器が見えないのだろう、怯むことなく武器を身構えた。

 銃口から青白い火花がはじけると、人を殺す威力を伝える衝撃が腕から肩を走る。その弾が命中したのかどうかは分からないが、奴らは慌てて列を乱した。

「どけえっ!」

 アクセルを開け、過重を後ろに乗せるとフロントタイヤが宙に浮いた。その体制のままスピードを乗せ、列に飛び込む。

 誰かが振るった鉄パイプが車体の腹を叩き火花が散った。バイクはそのまま突き抜け、無人のアスファルトに解き放たれた。走り去る俺に、後ろから悔しさ交じりの罵声が浴びせられた。

(この相棒さえいれば何とかなる)

 古い赤いバイクに目を落とし、やはりコイツを選んで良かった……そう思った。

 川沿いを進んだ先に橋が見える。電灯が全て消えたこの街で、なぜかその橋だけがぼんやりと光っているように見えた。

(まさか……)