俺はそれを上着のポケットに押し込んだ。

 沙羅と佳絵が別れを惜しんで泣き出した。と言っても俺が帰るときに追い泣きするのはいつものことだ。

 二人とも俺によく懐いていたが、俺もまた二人を溺愛していた。その可愛い天使たちを両手に抱きしめた。

「沙羅、佳絵。二人ともずっと自分の子供みたいに思ってた。お嫁さんになった二人を見られないのは残念だけど、最期まで忘れないからな」

 二人の泣き顔が頷いた。

「お父さんとお母さんが守ってくれるから、もう泣いちゃだめだぞ」

「うん……わかったあ」

 言ったそばからまた涙が零れ落ちる。その健気さがたまらなく胸に響いた。

 全員に別れを告げ、バイクに跨った俺に最後に兄貴が声をかけた。

「なあ、お前の俺との一番の思い出はなんだ?」

「兄貴がでっけえコイにルアー引っ掛けて逃がした時『日本記録のブラックバスだった』って大騒ぎしたことだね」

「さすが兄弟、俺も同じだ。だけどな、あれは間違いなくバスだった」

「まだ言ってるよ。コイだって」

 笑いながら拳と拳をぶつけた。

 いつも明るく、が兄貴の生き方だ。