トイレの洗面所へと足を運び、感知式の蛇口に手を差し伸べる。渇き切った喉は、すでに唾の一滴すら感じない。

(……?) 

 差し出した手のひらを左右前後に動かす。

(くそっ!)

 水が出ない。電気式の感知システムだ、室内の電気が点いていないということはここも停電しているのだろう。

「水が欲しいのか?」

 背後からの声に顔を上げると、洗面所の鏡ごしに男がチャックを上げながら近付いてくるのが見える。振り向いてその姿を確認すると、大柄な坊主頭の男が立っていた。

「俺、持ってるからやるよ」

「いいのか?」

 天の助けとはこの事だ。礼の言葉を述べると、促されるまま男の後についていった。

「飲みかけだけど」

 タンクに取り付けたバッグから水の入ったペットボトルを取り出して放ってよこす。ボトルの中に半分ほど残った水が音を立てた。

 その音に誘われるように反射的にキャップを開ける。けれども、飲み口とその不潔そうないかつい男の顔とを見比べて、一瞬躊躇した。