しびれを切らしたように老人は立ち上がり、俺に向き直った。

「それでも男か!」

 怒りに顔を赤らめる姿がそこにはあった。

「その女がそれほど大切ならお前はいま何をするんだ。まだ死ぬ気で生きられんのか!」

 その言葉に魂が殴りつけられたように揺れた。必死に生きるってことがわかった気がする。

 そうだ。俺はどうしても亜紀に会いたい。そのためにやるべき事は明白だった。

「お……お願いします!」

 自然と両膝と両手を油の染み付いた床につけて土下座をしていた。意地でも手に入れなければならない。体面などどうでもよかった。

「バイクを譲って下さい!」

 いつも虚勢を張っていた。カッコ良く生きたかった。ちっぽけなプライドが自分にとって一番大事だった。

(だから俺は亜紀を失ったんだ……)