「お前はバイクを手に入れて何しようっちゅうんだ」

「福岡まで行きたいんです」

「何しに?」

「好きな女に会いに」

 それを聞くと、老人は鼻で笑った。

「そんなに好きなら何で手元に置いておかん。なんか理由があったのか?」

「……離婚しました」

 話にならんという風に、今度は首を振った。

「情けない男だ」

 それだけ言うと、目の前に視線を戻し、再び中断していた手を動かし始めた。

「情けないですね……それでも、どうしても会わなきゃ俺は死ねないんです!」

「いつでも死ねるような生き方をせずに何を言うか!」

 恫喝が俺に飛んできた。

「人は必ず死ぬ。いつ死ぬかなんざ神様しか分からん。だからわしは必死に生きてきた、今も生きている、いつ死んでも悔いが残らないように。それが明日になっただけだ、なにも変わりゃせん」

 老人は少し息を荒くして睨みつけ、そして俺は何も言い返すことが出来なかった。

 沈黙を破ったのは早由利だった。