「馬鹿かお前? ガキ相手に出来るかよ」

 確かに少女の誘いに心を揺らさないほど老いてはいない。しかし、

「俺には好きな人がいる。そいつのところに行かなきゃならない」

 誘惑を振り切るように、諦めがつくようにそう言葉を返した。

「あたしは真樹夫が好きになった!」

 俺の首に回した手で顔を引き寄せると、早由利の唇が俺の唇に覆いかぶさってきた。

(不覚……)

 なぜ男は愛のない性欲に振り回されるのだろうか? なぜ俺は重ねられた唇を拒否することが出来ないのだろうか? このまま堕ちてしまえば楽になる。

 本能のままに、最期は欲望を満たせば良いではないか……


『会いたい』


 その軟弱な意思を切り裂くように耳を貫いた言葉――。

 その声に俺は現実に引き戻された。唇を離し、目を見開き、辺りを見回す。