地球最後の24時間

「あら、歩いて昇れってか?」

 六階にある部屋まで行くくらい、それほど難儀なものではない。俺は先に階段に足を掛けていた。しかしその足を止めるように亜紀が声を掛けた。

「抱っこ」

「ええ、階段だぞ!」

「お腹の赤ちゃんが心配でしょ」

 そう言って笑う亜紀の顔が、悪戯っ気を含ませている。

 しかし、今日の出来事にのぼせ上がっている俺は両手を前に出して亜紀を迎えた。その姿を工事関係者が妙な面持ちで眺めていたが、それすら気にならないほど今の俺たちははしゃいでいたのだ。

 一階、二階は簡単にクリア出来た。しかし三階あたりから腕がブルブルと震えをきたしてきた。

「亜紀、太った?」

 苦し紛れにそう言った。わがままを言う亜紀へのちょっとした反撃だ。

「ちょ……そんな訳ないよ。二人分だから重いのよ」

 少しふくれた亜紀は首に回した手を解き、だらりと力を抜いた。

「重いって、そんなしたら。落とす、落とすってば」

「絶対落としちゃ駄目よ。最後まで抱っこ出来なきゃ無事に子供が生まれて来ないかもよ?」

「ええー、そんなん……」

 困惑する俺の顔を覗き見る亜紀は満足気に笑い、そして再び首に腕を回してきた。

「だから、絶対諦めないでね──」