地球最後の24時間

 車の中で亜紀はこれまで見せたことがないくらいはしゃいでいた。生理が止まり、もしやと産婦人科へ検査に行った帰りだった。

「ねえねえ、名前なんにする?」

 その結果は妊娠二ヶ月ということだった。

 待合室で結果を伝えた亜紀は大声で泣き出してしまい、周りの奥様方からは祝いの言葉をたくさん投げかけられた。

 夫婦にとって最大の幸せというのは人によっては違うのかもしれないが、俺と亜紀にとっては今このときが一番幸せなのかも知れないと信じて疑わなかった。

「そうだなあ、亜紀と真樹夫を合わせてアキオなんてのはどう? 漢字はまだ考えてないけど」

「なに言ってんのよ、女の子だよ」

「え? もう分かってんの?」

「ううん、まだ分かるわけないじゃない」

「なんだよ、じゃあ……」

「女の子だって気がするの!」

 まだ全く膨らみを見せていないお腹をさすりながら亜紀はそう言った。

「なんでそんな風に思うの?」

 断言する亜紀に対して、それほど深く考えることなく俺は聞いた。

 すると亜紀は遠くを見つめるようなまなざしで車外を眺めながら、こう言った。

「んー、夢を見たの……」