教室へ戻って窓をあけて外をみるとようちゃんが車に乗り込むところだった。

向こう(私立女子)でも、もてるんだろうな。

なんて考えながら見ているとこっちに気付いた。緩く笑いながら手を振って口パクで『アホ』って言った。

私の事を生徒の一人として微笑んでくれるようちゃんに、『好き』って言ったらもう今みたいに微笑んでくれなくなるのかな。

暖かい春の匂いを含ませた冷たい風がふいた。

私は手を振る。
心から好きだよ、と想いながら。

春はくる。

あと二ヶ月で。


遠ざかるグレーの車を目で追いながら、ゆっくり窓をしめた。

冷たい風がようちゃんに叩かれた痛みを冷やして、なくしてしまいそうだった。


私とようちゃんが手を降っている事を知ってる人はいない。

みんなはテレビの野球に夢中だから。後ろからは男子の熱狂した声、女子の叫び声。

まるで秘密の恋みたいに思えたのは、私だけ…秘密の片想い。