どれだけ時が経っても、私は父に対して後ろめたい罪悪感のようなものを感じ続けた。

 誰一人として見舞おうとはせず、未だ孤独な生活を送る父。いや、もしかしたら寝たきりで孤独を感じる暇もないかもしれない。


(……て、私何を考えているの?)


 父の事が急に気になった。

 怖くて仕方ないけれど、今どうしているのだろうかと。誰も見舞ってくれない状況は父を傷つけてはいないだろうか。

 そんな思いが胸を締めつけた。


 いつかはきちんと向き合わなければならないという事は分かっていた。ただ、向き合う事が怖かった。逃げてばかりいる事も苦しかった。

 怖い怖いとばかり言って会いに行かない事が、自分自身を苦しめている。

 私はふと、その事に気づいたのだ。


「行かなきゃ…」


 行かなければ私は、一生父の事を背負っていかなければならなくなると悟った。

 行く事は父の為というより私の為。私は自身にそう言い聞かせた。















 夜になり、仕事を終えた私は重病感染隔離院に足を踏み入れた。

 恐ろしく薄暗いそこは、落ちたらただ落ちて行くだけの奈落の底のような気がした。

 見舞受付と書かれた窓口は無人で、ただ訪問名簿が置かれているだけだった。一先ず私はそれに記入し、ごくりと唾を飲み込んで奥へと進んだ。

 奥へと進めば進むほど、悪臭が鼻をついた。消毒液の匂いと腐ったような腐臭が堪らなく嘔吐感を強くする。

 私はカバンから取り出したハンカチで鼻と口を押さえながら進む。

 するとやっと、病室らしきものが見えて来るようになった。

 掲示されているネームプレートを確認しながら進んで行くと、最奥の病室に父の名前を見つける事が出来た。