頼正は遠退く意識の中で、年嵩の陰陽師の言葉を思い出していた。


『失せものの相が出ておりますよ。お気を付け下さい』

『それと……いえ、これは申し上げぬ方が良いでしょう。どうか、あまり隙を見せませぬよう』


 ああ、陰陽師殿が言いたかった失せものの相とは、幸継の事だったのか。そして申し上げぬ方が良いと言うのは、死相の事だったのだろう。

 死に際にようやく、頼正は陰陽師の言葉を理解した。


 開眼している事が億劫になってしまった頼正は、重い瞼を閉じた。

 そして宵を待つという儚げな名を持つ姫を想う。笛の音のような優しい声ももう聞く事は叶わない。


 その瞼は二度と開かれる事は無かった。





 朔の夜──。

 蔓延るのは妖や化生ばかりでなく、人の悪意も劣らず顔を出す。

 心を同じくし、背を合わせて団結した日々はもう戻らない。





*End*