混乱と衝撃が物凄い速さで脳内を回転する。

 何も分からない。


「お前は賊に殺られた。左近衛府少将とも在ろう者が、情けない末路だな」

「うっ! がはっ」


 幸継の言葉は入って来るも、言葉を返す事は出来ない。


「こいつらは俺が動かしたんだよ。京の外れでのたれ死にするところを助けてやってな」

「俺をっ……憎んで、いたのか」


 やっとの事で発した言葉は弱々しく、か細い。頼正の口の端から赤黒い血が吐き出される。


「最初から憎んでいた訳ではない。兄弟のようにして育ったお前を憎む事になるとは、予想だにしなかった」

「ぐ…っ」

「待宵の君。そして皆の期待。それは私が得られず、お前が得たものだ」

「え……」

「先に待宵の君を見染めたのは俺だ。そして先に出世したのも俺。それなのにお前は、何食わぬ顔で待宵の君を射止め、皆の期待を受ける」


 そんなお前が憎くてしょうがなかった――幸継はそう言い募った。

 頼正は幸継の言葉を誠実に受け止める。長年傍にいて幸継のそんな想いや負い目に気づいてやれなかった自身を責めた。


「幸継……っ」


「……憎んでいた。しかしお前との背合わせだけは良いものだった」


 幸継の小さな呟きは、辛うじて頼正の耳に届いた。

 頼正は霞む視界の中で懸命に幸継の姿を捕えようとしていた。しかしそれは、抜けて行く血と廃れて行く内腑のせいで叶わない。


「左衛門督様ー!!」


 遠くから先の右近衛府源曹の声が聞こえた。それに応ずる幸継の声も届いた。

 何やら慌ただしく会話を交している。大方、何故、左近衛府少将が殺られているのかという話だろうと予測される。