翌日、夜8時に立野宅を訪ねると、彼女の母が笑顔で出迎えてくれた。
黄色い生地に朝顔が咲いた浴衣。赤い帯が浴衣に合っていて良い。
「二階にいるわ。貴方を待ってる」
「ありがとうございます」
礼を言って二階に上がる。彼女の部屋の扉は開いていた。
月明かりの中、彼女は窓辺に立って外を眺めている。
ふと、彼女の体が揺れた。
「日向っ!!」
慌てて日向の腕を掴み、こちらに引き寄せる。
「……速水、さん?」
「危ねぇだろ?!」
「あ…、済みません」
月明かりに照らされ、彼女の顔が浮かび上がる。
「速水さん…? 顔色が」
「悪い」
彼女の腕を放し、背を向けた。
自分でも分かる。驚いて、驚きすぎて、顔が真っ青な事くらい。
手が、震えている。
「あの」
不安そうな日向の声に、俺は我に返った。
振り返り、彼女と向き合う。
「悪い。少し驚いただけだ」
「ごめんなさい」
「いや、お前は悪くない」
「速水さん…」
「浴衣、よく似合ってる」
彼女は、初めて祭りに出かけたあの日と同じ、紺の浴衣を纏っていた。
髪は前より伸び、結い上げられている。
「そろそろ行くか」
「……はい」
彼女を伴って下へ下りると、浴衣姿の彼女の母と甚平姿の彼女の父が待ち構えていた。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「よろしく頼むぞ、速水君」
「はい。お預かりします」
「……行って、きます」
それぞれに挨拶を済ませ、俺達は二人に見送られた。
坂道になっている斜面を、彼女はゆっくりと歩く。下駄がカランコロンと乾いた音を上げる。
俺は、彼女が転びそうになった時、いつでも支えられるように構える。


