どうやら、この子犬達の飼い主らしい。


「まあまあ、どうしたの」


 老婆は目を見開き、汚れた少女を見つめる。少女は何も言わず、老婆から目を背けた。

 老婆は首を傾げ、それから少ししてにっこり笑い、少女の汚れている手を難なく取った。

 少女は驚いて老婆を見つめる。老婆は優しく、まるで魔法の呪文を唱えるように少女を誘った。


「おいで」


 少女は何も分からず、誘われるままに歩き出した。















 着いたのは、とても古くおんぼろな木造の家だった。

 子犬達はキャンキャン鳴きながら家の中へ入って行く。どうやら、この家は老婆と子犬達の住居らしい。


「お上がりなさい」


 そう言いながら、老婆は家の中へ上がる。

 少女は無表情のまま、言われるままに白のくすんだ靴を脱ぎ、中へ上がった。歩く度にギシギシと悲鳴を上げる廊下に興味を示し、足許を見つめながら歩く。

 居間には古びたラジオと焦茶色の小さな和箪笥、三人が座れるくらいの侘びしいちゃぶ台が置かれていた。


「座って、飲みなさい」


 にっこり笑って、老婆は湯呑みと最中を差し出した。

 少女は勢い良く最中を平らげ、ごくごくと緑茶を飲み干した。


「お腹空いてたんだねぇ。お風呂に入っといで。その間に何か作っておいてあげるから」


 あそこだよと指で指し示し、老婆は箪笥から子ども用の下着と長袖シャツと白のスカートを出して少女に手渡した。


「私の子どもの服で悪いけど、その服よりはマシだろう」


 老婆の差し出す服を受け取り、少女は風呂場に向かった。

 さっとシャワーを浴び、風呂から出た少女の目にほかほかの食事が映った。


「冷めないうちにお上がり」


 老婆の優しい言葉に、少女はがっついて食べ始めた。

 味噌汁に白いご飯、漬物だけの質素な食事。しかし少女にとっては最高の食事だった。

 久しく温かいご飯を食べていないのだ。