「ココアでも入れようか」


 少し冷え込んで来たから暖まらないと。風邪でも引いたら大変だ。

 台所へと立ち上がる。


「いい」


 消え入りそうな声で花笑は呟き、体を起こした。


「花笑?」


 問いかけには答えず、抱きついて来た。少しだけ、寂しそうに。


「花笑?」

「何も要らない。プレゼントなんて要らないから」

「え?」

「傍にいて。お願い。ずっと、傍に」

「……っ」


 抱き締め返した。華奢な花笑の体が壊れてしまいそうなほど、強く。


「痛っ……樹(イツキ)、苦しい」

「花笑、ごめん」

「どうして謝るの?」

「俺が、花笑の幸せを奪ったんだ。花笑の幸せを一番に考えていたのに」


 まさか、自分がこんなにも誰かに依存するなんて思ってもみなかった。


 何人か付き合った子もいた。しかし、別れはいつだってあっさりしていた。

 つらい別れなんてなかったし、こんなにも他の男に渡したくないと思った事など一度もなかった。

 それなのに、花笑にだけは異常な執着心。

 このままだと俺は、花笑を縛りつけ、部屋に閉じ込めてしまいそうだ。


 どうしたらいい?

 俺は―――。


「樹。大好き。一番、樹が好き」

「花笑……」

「樹の一番は、誰?」


 心がフッと楽になった気がした。


 難しく考えるのはやめにしよう。自分の気持ちに正直になろう。


「目の前にいる女の子だよ」


 微かに赤みがかった花笑の頬に触れる。と、花笑はまっすぐに俺を捕え、愛らしい笑みを浮かべた。

 愛しくて堪らなく、そっと口づけた。


 神様。もし、いるのなら。


 どうか俺に、花笑を手放せる勇気を。

 いつか花笑をズタズタに傷つけてしまわない前に、俺に、彼女を手放せるだけの勇気を。


 ──どうか、この手に。


*End*


――――――
人の奥深くにある欲望。
独占、束縛、拘束、監禁。

どんな手を使ってでも、
自分のモノにしたい。
自分だけのモノに。

それは、
貴方の中にも在るのです。