【side十月】



 まさか小絃に告白されるなんて、思ってもみなかった。

 小絃の事は可愛いと思うし、話してると楽しい。けどそれは特別な感情ではなくて、一緒にいて楽しいと思える友達だった。

 恋愛の対象として見ていなかった。けど、小絃は…。

 小絃は、ずっと俺の事を恋愛の対象として見ていたんだな。全然、気づかなかった。


 最低だな、俺。しかも、応援までされてさ。立つ瀬ないじゃん。


 告白…しないといけないな。告白された上に、応援までされたら。

 告白する事を強く心に決め、俺は歩き出した。湖を捜す為に。


 勘を強く働かせて。

 右、左、右、右。ゆっくりと歩いて行く。


 左。曲がった瞬間、しゃがんで頭を抱えている湖を見つけた。


「湖! 大丈夫か?!」


 俺は即座に湖の肩を掴む。湖は顔を上げ、俺を見つめた。

 ボロボロに泣いた顔だった。


「十月ぃ!!」


 湖が抱きついて来る。

 俺は心臓が高鳴って思考回路が一時停止した。


「怖かった」

「も、もう大丈夫だ」

「うぇ~ん」

「ほら、立て」

「うん」


 湖を立たせて、ゆっくりと歩き出す。

 少し歩くと、出口に辿り着いた。外から光が差し込んでいて、眩しい。


「で……出口だぁー!!」


 湖は喜び、駆け出した。


「おい、湖。何か言う事はないか?」

「ありがと、十月!」


 ったく。本当にお子様だよ。けど、湖のそんな純粋なとこが好きなんだよな。


 伝えよう。今なら言える。


「なぁ、う……」

「暦!!」


 湖は一目散に駆け出す。

 大好きな男の所へ。


 俺はそれを見ているだけだった。


「暦!!」


 力一杯抱きつく湖。力一杯抱き締める兄貴。それはとても絵になっていた。


 その時、俺は悟った。伝えない優しさって言うのもあるんじゃないかって。

 幸せそうな二人に水を差すような事は出来ない。それは臆病とかじゃなくて、一つの恋のカタチ。


 敢えて言わないからさ。絶対幸せになれよ、湖。