彼女は言い捨てると食器を一つにまとめて立ち上がった。すると、扇風機の風によってスカートがふわりと上がる。


「──―青」


 ポツリと呟くと、彼女は顔を真っ赤にして食器を置いてスカートを押さえた。


「ばっ、ばか! ばかばかばかっ!! 最っ低!!」


 バシバシと肩や胸を叩く彼女。


「ってて、やめろって、あれ不可抗力!」

「見なかったフリくらいしてよ、ばか! 無神経!」

「別にいいだろー、俺彼氏なんだしさー」

「ヤなもんはヤなの! ばかぁっ!」


 泣きべそをかきながら、尚も叩いて来る彼女を見て笑う。

 外から聴こえていた蝉の鳴く声も、いつの間にか気にならなくなっていた。


「出かけるだけがデートじゃないだろ? 二人でゆっくりしよーぜ」


 ニカッと笑って提案すると、彼女は落ち着きを取り戻して。腑に落ちないような顔をしながらも、俺に擦り寄って来た。


「夜。涼しくなったら、どっか連れてってよ」

「了解」


 暑い夏も、彼女とゆっくりしているなら悪くはない。


 夏と言えば、空と海。夏と言えば、……青。






*End*