白銀の景色に、シルエット。

 坂を下りて少し歩けばもう、祭りの入り口。

 露店から住民からで賑わっている。


「花火が上がるまでの一時間、うまい物たらふく食うか」

「たらふく……」

「焼き鳥だろ、お好み焼きだろ、たこ焼きだろ、綿飴だろ、アイスだろ」

「そんなに食べるんですか」

「ああ。それと、金魚すくいもやろーぜ」

「金魚、すくい?」

「立野が好きだった。この前に行った時、すっげぇ楽しそうに金魚すくってたんだよ」

「……よく見てらっしゃるんですね」

「全然。俺はお前の好きな物なんて、向日葵とオレンジゼリーと金魚すくいしか知らない」


 初夏の向日葵。暑い日のオレンジゼリー。祭りの金魚すくい。

 俺が知ってる彼女の好きな物はこれくらいだ。


 忙しさにかまけて彼女を放置して、挙げ句の果て、彼女との大事な約束より仕事を選んだ。そんな最低な俺がこの状況を作り出した。

 お前がこうやって記憶喪失で苦しんでいるのは、俺のせいなんだ。


 なあ、日向。お前は俺と出逢っていなければこんな事にはならなかった。記憶喪失になる事はなかった。

 そう思うと、俺はどうしてもお前と出逢った事を後悔するんだ。


 俺じゃお前を幸せにしてやれない──。


『航! 金魚すくいやろ! 私うまいんだから!』

『おいおい、すくっても俺飼えねーから』

『私が飼う! ほらやろ!』

『ハイハイ』


 楽しそうに笑って、金魚すくいを始めた彼女。

 並んでしゃがみ、金魚を吟味する彼女の横顔を眺めているだけで俺は楽しかったし、幸せだった。


『ちょっとちょっと、人の顔ばっか見てないですくいなさいよー』

『お前がそんなひょいひょいすくって、俺まですくったらここ繁盛しねーだろ』

『あ、分かった! 航ってば下手なんだー!』

『んな事ねぇよ』

『だったらほら、すくいまくるよー!』


 本当に楽しそうな笑い声に、俺もついつい笑ってしまった。