「修司?どうしたの?」
玄関から動かない俺を不振に思ったのか柚木ちゃんがリビングのドアを開けて顔を出す。
『あ…いや、なんでもないんだ』
ふっと笑って見せる。
まず…俺、今うまく笑えてた?
緊張で…頬の筋肉、固まってたり…しないよな?
なんて心の中で呟きながらキッチンで紅茶を入れる。
木下姉妹は飲み物の好みが全然違う。
加奈さんはブラックのコーヒーが大好き。
けど柚木ちゃんはブラックじゃコーヒーは飲めないし、どちらかと言えば紅茶派。
って俺、なんで姉妹の好み知ってんだよ。
まあ、そんだけ付き合いが深いってことなんだろうけど。
湯気がのぼっている紅茶を1口飲んだ柚木ちゃんは
「修司の煎れる紅茶、大好き」
なんて笑顔で言っちゃって。
ホント、罪だよ、柚木ちゃん。
今の言葉でどれだけ俺が動揺してるか分かってる?
ま、分かってたらそれはそれでどうなんだよ、って話だけどさ。
でも、少しくらいは罪の意識持って。
俺がこんなこと思うの何回目か知ってる?
もう、数え切れないくらいずっと、思ってるんだから。
『ね、柚木ちゃん』
カップの中で揺れる薄茶色の液体の表面を見つめながら俺は言った。
『今日…授業中に言ったこと…本心?』


