「もう…イヤだよ…
学校…行きたくないよぉ…」
ドアの向こうにいたのは柚木ちゃんだった。
俺を見上げるその目は幼なじみが婚約すると知ったときの、あの目と同じだった。
「……どうすればいいのかな…あたし。
ね…修司、教えてよぉ……」
『………柚木ちゃん…』
あれだけ、柚木ちゃんに合わせる顔がないと志帆に言ったのに。
こうして柚木ちゃんが俺を頼ってくれたことを喜んでる俺はバカなんだろうか。
『とりあえず…入って』
新聞部の糞野郎がいないとは限らない。
いち早く、柚木ちゃんを中に入れないと。
素直に柚木ちゃんは部屋へ入る。
俺は廊下を歩いて行く。
でも
『……どうした?』
後ろにいた柚木ちゃんに腕を掴まれる。
そして微かに背中に感じる柚木ちゃんの気配。
きっと、柚木ちゃんは俺の背中に頭を付けてる。
静寂した部屋に俺の鼓動が響いているんじゃないかと不安になった。
「修司ぃ……」
加奈さん。
いいのかなぁ。
俺…さ。
今まで我慢してきたけどさ。
もう、無理だよ。
こんな状態で耐えられるほど、俺はまだ大人じゃないんだ。
心の中で加奈さんに言い訳。
きっと、あとでこのことを知ったら怒られるんだ。
それじゃあ今までの我慢が水の泡でしょ。
って。
それでも良かった。
それでも、俺はいいんだ。
それより、俺にとってはこの瞬間が大事なんだから。
そして俺は振り向くと精一杯の力で柚木ちゃんを抱きしめた。


