「……ね、修司。
怒らないで聞いてね?」
『え?』
「ホントはね、ちょっと後悔してるんだ。
転勤決めたこと、後悔してるの」
思ってもみない言葉にビックリした。
『なんで?
考えて転勤、決めたんだろ?』
「そうだよ。
そうだけど…なんだろっ、このキモチ。
自分でも…よく、分かんないの」
困ったように笑う柚木ちゃんが想像できた。
「なんかね、分かんないけど、イヤなんだ、ここを離れるの。
こうして、ベランダで修司と話すこと、なくなっちゃうんだ、とか
加奈とワイワイやれなくなっちゃうのか、とか
数学準備室の掃除を修司と佐藤くんと話しながらやるのもなくなっちゃうんだ、とか
いろんなこと考えてたら、
やっぱり…ずっと、ここにいたいな、って思うの。
そりゃあね?
次の学校に行くことの楽しみもあるよ?
もちろん、その分の不安もあるけどね?
だけど、だけど、なんか…すごくイヤになっちゃった。
修司…どうすればいいのかな、あたし」
『1度決めたことを曲げるのは…よくないんじゃねぇーの?』
柚木ちゃんの言葉は俺を戸惑わせた。
けど、きっと、今の俺の役目は迷ってる柚木ちゃんの背中を押すことだから。
だから、俺は言う。
『自分で決めたことなんだから、最後まで貫けよ。
きっと、向こうの学校行ったら行ったで楽しいこと、いっぱいあるだろうし。
それに…加奈さんも、俺も、新も。
ずっと、ここにいるんだから。
だから…淋しくなったら帰ってくればいいだろ。
それだけの…ことじゃんか…』


